♯7 余越保子×泰山咲美×米澤百奈
NEWCOMER / SHOWCASE#7 余越保子振付作品
【NEWCOMER / SHOWCASE】7人目の振付家は、余越保子氏。1月9日のクリエーション終わりに、5期生の泰山咲美、米澤百奈の進行で余越保子さんにお話しを伺いました。クリエーションの中で感じたことや疑問を二人が投げかけます。
泰山:よろしくお願いします。さて、クリエーションも今日で折り返しですがいかがですか?
余越:え!もう半分なの?
泰山:日数的に、、、(数を数える)そうですね、半分経ちましたね。
余越:半分なんや〜、恐ろしい(笑)。
泰山:今回、余越さんは5期生の中から振付家志望のメンバーを募って、シーンづくりを担わせてくださっています。余越さん自身、「このつくり方はやったことない」と仰っていましたが、なぜ今回はこのような形態を選ばれたのでしょうか。
余越:そうですね。作品をつくるときに、「やったことのないことをやる」というのが基本姿勢にあるんですね。だからこの「やったことのない」っていうのは、ある種自分を奮い立たせるのと、やったことがないんだという確認というんですかね。
やったことがないが故に、知らない部屋に入るんだっていう。知らなければ知らないほどいい、というのはあると思いますね。
今回なにが新しいかというと、振付家が3人もいるということです。その振付家さんたちにある意味、作品のセクションを任せてつくるというのがまず初めてですね。3人もの振付家とつくるというのが初めて。一対一でというのはありましたけど。今までやった合同振り付けの場合は、私がサブに入ってもう一人がメインでするというのをやっていました。でも、自分がメインに入って他がサブでやるっていうのは初めてです。私がサブの合同振り付けの場合は、もうバトルばかり(笑)なかなか大変だったんですね。だから簡単なことではないことは分かっていたんだけど。
私がこの5期生に振付家としてもやりましょうと言ったのは、私がNYから日本に帰って来てから自分が一番シェアできることが、やはり振付家を養成することだと思ったからです。自分の振付家としての経験や知識を若手の人と一緒にシェアするというのが、ひとつ大きくあるんですね。それは何故かというと、日本から世界のマーケットで振付家としてやっている人があまりいない。世界の著名なダンスカンパニーに入ってダンサーから振付家になるっていう人は結構いるんですけど、日本を土壌にして日本で培養して世界に出て行ったという人は数少ない。なのに、日本には踊りたいダンサーがもの凄く多いんですよね。教育機関などの環境も整っていないし食べていける状況でもないにも関わらず、ダンスに情熱を傾けている人が多いというのを昔から知っています。そういうダンサーたちを舞台にのせて、最もいい状況で活かすことのできる振付家がもっともっと増えれば、日本のダンス界が活性化するんじゃないかなというのがありました。今回私がこの国内ダンス留学プログラムの中でやろうとしていることでだと、振付っていう現場をつくる人だけでもなく、参加するダンサーも自分の仲間が振付家になって苦しむのを見ていく訳だから、共有できると思うんですね。何が課題になってどこが難しいか、どこをどうすれば踊りが膨らんでいくかを目の前で見ていけるから。そういう現場をつくりたいなって思ってこういう形にしました。どうですか?
泰山:そうですね。私はアシスタントとして振付家たちの中にいますが、今まさにダンスを立ち上げていく難しさの壁にぶつかっています(笑)その中で次の一手というか、じゃあここをこうしてみたらいいんじゃないかという具体的なボキャブラリーが自分にはまだまだ少ないなと感じています。
余越:現場を踏んでいくしかないんですよね。ダンサーとしても振付家としても、どれだけ現場を踏んで危機感をもって舞台に立ち、作品を立ち上げていくか。やっぱりうまくいかないことの方が多いし、これはまずかった、とかこれだったらいける、という自分の腑に落ちた経験を踏まないと難しいと思うんですよ。日本の中ではこういう経験が踏める環境が少ないのでいかに今ここで腑に落ちる実体験を積めるか。今3人の振付家たちも一生懸命つくっているんだけれども、アイデアをアウトプットした時に、あれ?ということの方が多いですよね。なんでそうなったのかを自分で腑に落ちていないと、結局次の一手は踏めない。ダンサーも振付家も、リアルにそのうまくいかない経験を踏んでいく現場が大切だと思います。今回私はそこに重きを置いているので、すごくいい作品が出来るかは分からないんですけど、みんなが現場を踏んでいったこの3週間の先で何か掴めるだろうと思いますね。そこを見ています。
米澤:今言っていただいた言葉も、クリエーション中に余越さんに言っていただいている言葉も、すごくこうグサグサっと刺さるというか(笑)
余越:私よくそのグサグサ刺さるって言われるんだけどそんなにグサグサ?(笑)
米澤:でも事実を伝えてくださっていて、そこを超えていかないと何も見えず腑にも落ちないし、自分は現場において「踊ることは楽しい」ということに長い時間を使っていたんだなということに気づかされました。
余越:グサグサが少なすぎるんじゃない?少なすぎて、珍しいんじゃないですか。グサグサがなくてダンスがあり得るのかっていうのも私の中でありますけど(笑)。私がダンサー人生で舞台に上がるにしろ振り付けるにしろ、仲間に言われるにしろ、グサグサがなかったことなんかないんですね。だからこれは腑に落ちて回復して乗り越えていくことでしか伸びないと思うんですよ。それは傷つけるとかそういうのではなく、厳しい見る目をお互いにもった仲間をちゃんと確保しておくことが大切だと思いますね。
米澤:いま、前半のワークの中では、2人組になって一人ずつ相手の目を見て踊るということをやっています。見ている方は主観的につまらないと思ったら相手の踊りに対して、手を挙げてジャッジをするワークなのですが、初めはこんな経験したことなかったので相手の踊りに対して優しくなってしまったり。でももっと厳しい目で見るというか、自分がどういうものを好んでいて、どういうものを嫌と思っているかによく気づかされるワークで面白いなと思います。やればやるほど心折れそうにもなるけど、どんどんダンサーのいいところが見えてくるなとも思っています。
余越さんはあのワークをやり続けた先のヴィジョンというのは何か見えていますか?
余越:あのワークはまだ実験段階なので、すべてのダンサーに効果的なのかは分からないんですね。昨日、大学の授業で初めて同じワークを紹介した時に、一人の男の子がどれだけ手を挙げられていても絶対踊りを変えなかったんですよ。手を挙げる方と絶対踊りを変えない方とでバトルになって、ものすごい緊張感が生まれて素晴らしかったんです。終わった後になんで変えなかったのと聞いたら、「闘わないといけないと思った」って言ったんですね。だから、いつも踊りを変えればいいっていうのでもないんですよね。そのダンサーの踊りの姿勢も問うし、見る者の姿勢も問うものだから。
泰山:毎日違う相手とやるのも面白いですよね。私がやっていて感じるのは、踊っていくには見る目を養うことも必要だなということですね。踊る=見るだし、それがつくるということにも繋がっていくんだなと。
余越:私たちがいうところの踊りは、見られないと踊りにならないと思うんですよ。だからその目とどういうふうに自分の身体が対峙するかっていうのはいつも付いてくる。あと、ここにいる全員がダンサーになったり振付家になったりはしないと思うんですね、この厳しい日本の状況の中で。だけどもこういうことをたくさん乗り越えていると、見る目をもった観客が増えると思うんです。啓蒙っていう意味でも見る力がある人間を増やすっていうことも日本の中では大事だと思います。
米澤:なるほど〜。いつ頃から余越さんは日本でというように思われるようになったんですか?
余越:そうですね、dBで高校生とやったときにですかね。百奈ちゃんも参加してくれたよね。これには伏線があって、アメリカで高校生のプロジェクトをやった時に、ものをつくり始めるのがやはり大学に入ってからだと遅い、高校生くらいから訓練をしていかないとと感じて。それで日本の高校生ともそういうプロジェクトを一緒にしてみたいなと切に願った時期があったんですね。その時に、日本には創作ダンス部というのがたくさんあって、みなさんダンスをつくることはしているんだけども、その中で私がコンテンポラリーダンサーとして振付をしていくことがなんだか乖離があるように感じたんですね。なにかというのははっきり私にもわからないんですが。でもそうやって高校で一生懸命ダンスをしている人たちに、私が介入できるのかの実験だったんですけど、そこに至るまでにも交渉が大変だったんです。(笑)
米澤:そうだったんですか!
余越:やはり何のシステムでもそうですけど、システムができあがっているとよそから入ってくる刺激とかある種の影響が入ると跳ね返すということがあります。よくあることだとは思うんですけど。そういう中でなんとか色んな人に協力していただいてやった時に、やはり振付の訓練というのはこれくらい若いうちからたたいていかないと、一回固まっちゃうとたがを外すのが難しいと感じました。悪い意味ではなく、こういう踊り、こういう価値観、こういう美意識っていうのを一回疑って再構築するというプロセスが若ければ若いほど膨らむと思うんですね。それが必要だなと思います。
泰山:余越さんが今まで見てきたダンサーの中で、このダンサーはいいなと思うのはどんなダンサーですか?
余越:面白い人はたくさんいるんですけど、なんかこう中毒になるダンサーっていますよね。そういう人ってこう、癖がないんですよね。その人じゃなくて踊りが見えてくる人。その人が紡ぐ踊りを見てみたいと思います。今までのこと考えてみても、もう一回見たいと思う人はやっぱり、素直なダンサーでしょうね。
米澤:先ほどお話しにあった私が高校生の時にやった余越さんとのクリエーションでも今回のクリエーションでも、紹介してくださるダンサーといえば、トリシャ・ブラウンが多いですよね。余越さんの中で影響を受けている部分というのはありますか?
余越:トリシャ・ブラウンをよく紹介するのは、私が日本で教える若い人たちの中に、踊りよりも表現にいっちゃう人が多くて、そうじゃないんだ、踊りなんだっていうのを分かってもらうために見てもらったりしますね。もちろんピナ・バウシュもマーサ・グラハムも大好きですけど、それを見ちゃうとドラマ性に憧れて表現しちゃうんですよね。表現する前に身体を見せてくれっていうのがあるので、トリシャを見せたりします。
泰山:トリシャのような技術を身につけている若手のダンサーって日本では希だと思うのですがどうですか?
余越:トリシャの良さは巧いだけではないんですよね。なんというか遊び心がある。
考え方が「粋」なんです。そういうのは日本にいたって生まれると思うんですよ。ダンスに対して粋な考え方をするっていうのは。きっと踊りに対する見方とか目線さえ軸があれば、これだけ踊れる人がいるんだから面白い作品をつくれる人はたくさん出るはずなんです。
米澤:余越さんが初日に、「あなたたちはダンサー同士のコミュニティーをもっと大事にしなさい」と仰っていたのを思い出します。今まで当たり前のように顔を合わせて稽古しているけど、同じものを見て、ダンスへの価値観や意見を共有できるコミュニティーはなかなか見つけられないというか、ダンス留学に来るまではそう人に出会える機会がなかったので、今コミュニティーの大切さをすごく感じています。技術だけが高いような集団ではなくて、見る目をもった集団とか、全国から集まってそういうのを共有している今の仲間が余越さんが言っていたコミュニティーなんだろうなと感じます。
逆にこれが終わったらこういうコミュニティーを他の場所で育んでいくことは、日本でどうやったら実現することができるんだろうって考えますね。
余越:やっぱり一人ひとりが、自分がそういうコミュニティーのリーダーになるんだという自負がないと増えていかないと思います。これからまた日本の各地に戻って行った時に、自分の村や町にそういうグループをなんとかつくってキープしていくくらいの自負がないと難しいと思いますね。
—では最後に、公演に向けてどうぞ。
余越:まだ何もできてない。(笑)
泰山:まだ今つくっている真っ最中なので、正直これからどうなるんだろうという恐怖みたいなのもありますが、そのところをどう楽しんでいけるかが大事だなと感じています。
米澤:ダンサーも危機感をもっているけれど、余越さんと他3人の振付家と、私たちアシスタントも顔には出さないけどみんな危機を感じていますよね(笑)。でもこれはダンス留学のためのと仰ってくださっていたように、いい意味での危機感と
して保ちながら最後までなんとかもっていきたいなと思います。
余越:作品になる瞬間が必ず来ると思うんですね。そこは本当に感動的だし、その瞬間を見れると思うんですよ。作品がいきなりわっ!て生まれる瞬間に立ち会えると思うからそこは楽しみにしていきましょう。
泰山:それでは年始の公演に向けて、後半もどうぞよろしくお願いします!
電話:078-646-7044 メール:info@db-dancebox.org
(編集:泰山咲美、撮影:横堀ふみ)