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Artist Interview vol.6 寺田みさこ


―寺田さんは、どのようにしてダンサーに振付していくのかお伺いしたいのですが、まず京都造形大での学生に対してはいかがでしたでしょうか?

 大学の授業ではいわゆる「振りを付ける」というような機会は意外と少なくて、むしろ学生が自分達で何かを作っていくための方法を提案してみるようなやり方でした。ただ、どういうアプローチであれ、ダンスをする上でとにかく考えることを強要するようなところはあったと思います。

―「考えることを強要する」ということは、どんな風にですか?

 簡単な例を挙げると、「踊っていて楽しい」とか「自分が踊っていて楽しければ、観ている人も楽しいはず」と思い込んでいる学生が割とたくさんいるんですね。そうした時にまずは「楽しいって何?」って純粋な質問として投げかけます。意地悪のつもりでは全然なくて「楽しいとは何のことを言っているのか?」という類の質問です。

 そういうやりとりの中で、自分の考え方とか感覚とかが更新されていく喜びを見出せた人は、どんどん自分で考え始めますよね。もちろんその行程を面倒がって離れていく学生もいました。ただ、とにかく私自身が、いちいち疑ってみないと気が済まないようなところがあるんで、どうしても学生にも強要しちゃうんですよね(笑)。

―学生と作品をつくる時は少し違うかもしれませんが、寺田さんは、ダンサーとどういう関わりというか、どのようにしてダンサーの持っているものを生かしてつくっているのでしょうか?

 学生と言っても結構粒揃いだった時もありました。とにかく造形大の授業では学生のバックグラウンドがバラバラなのが特徴で、ダンスメソッドの有無はもちろんのこと、演劇を志している学生から裏方志望者まで、滅茶苦茶に入り混じってやっていたので、いわゆる群舞的なことよりは一人ずつと関わっていくことの方が多かったですね。

 ある年に韓国人の留学生が二人いたんですけど、その時面白かったのは、一人はバレエとかモダンダンスをやっていた人で、もう一人は伝統舞踊の人でした。振付をそれぞれにしようとした時、バレエやモダンダンスという私とダンスのベースが同じ人に対しては、一緒に動きながら次の振りがどんどん出てくるのに対して、伝統舞踊の人を前にするといわゆる「振り」が出てこないんですよ、全く。

 当たり前のことですけど、私のダンスの流儀に則って出てきた振りでは成立しない身体があるということを実感した例でしたね。ただ結局のところ相手が変われば多かれ少なかれ全部違っていたとは思います。細かく振付をしてみたり、アイデアだけ渡して自分で作ってもらったり、あと、どの程度の即興性を持たせるとその人の身体が生き生きとするかってことには、結構注意を払って色々試します。

 とにかくやってみないとわからないことが沢山あります。大学という場所は毎年毎年新しい学生がどんどん流れ込んできて、しかもどんどん新世代になっていくし(笑)、ある意味翻弄されっぱなしでしたけど、お陰さまで私の引き出しの中身も随分更新されたし、かなり鍛えられたと思います(笑)。

―ダンサーに対して振付をしている時に、いいと思える瞬間とはどんな瞬間ですか?

 (沈黙)・・・難しいね。

 うーん、何かが満ちている、とか、密度とかよく言いますが、密度・・・つまりその踊っている身体の集中の仕方がどれくらいクリアか、とか、意識が自分の身体やその周りのすべての情報に対してどれくらい敏感に働きかけたり受け取ったりできているか、とかいうことは大事かなと思います。

 あと、「身体の解像度を上げる」とか「散漫な集中力」みたいな言い方もよくしますね。身体っていうのは常に大量の情報を孕んでいると思うんですが、それらのどこにスポットを当てるか、というか、本人が自覚している情報の量とか質の具合によって、逆に自覚され得ないノイズの溢れ方とかも違ってくると思うんですね。その絶妙なバランスの中で地味〜にダイナミズムが発動されたりすることに興奮しますね。

 ダンサーによって、物質的な情報を沢山持つことで身体が充実するタイプと、イメージを強く持つ方が効果的なタイプの人がいると思うんですが、私にとってはイメージというのは割と曲者で、振れ幅が大き過ぎるというか、たった一つのイメージで飛躍的に身体がクリアに見えてきたり、逆に完全に身体がぼやけてしまったりするので…。

 とにかく最終的にはやっぱり身体なんですが、そこへ向かうための入り口とか通り道は色々あるので、振付の時はその人が辿り着きやすい方法を探しながら進めます。

ただそういうやり方が、果たしてダンサーにとっていいことなのかな、と思うこともあります。

―それはつまりどういう事ですか?

 振付家が、「この人はこうだな、この人にはこうやって」という風にダンサーに合わせて指導することによって、個人のポテンシャルが引き出される可能性はあるので、ある時期の学生にとっては、教育的指導として必要なことかもしれませんが、一方でそうやってダンサーに合わせることで、逆にスポイルしてしまう可能性もあるかもしれないし。

今回の「国内ダンス留学@神戸」5期は、いろんな振付家の方がいらっしゃるじゃないですか。それぞれの方の振付に対するアプローチがどうであれ、結果的に自分の身体をベストな状態に持って行ける方法を、まずはダンサー自身の側が意識的に獲得することが大切なんじゃないかと思います。学生と違って仕事としての関係であればそんな丁寧に合わせてくれないかもしれないですよね、振付家って。(笑)バンッと振りを渡された時にそれを自分でどう消化していくのかっていうのは、ダンサー自身が持っておくべき技術だから。これって別にマルチにどんな振付もこなせるダンサーを目指すみたいな話しではなくて、自分のダンスを成立させる方法に対して、誰よりも自分自身が意識的であった方が良い、という類の話です。いろんな振付家と一緒に仕事をする楽しみって、自分が今持っている技術が更新されたり化学反応を起こしたりすることじゃないかと思うんです。そのためには前提となる技術を少しでも多く持っている方が良いと思います、フィジカルの問題だけでなく方法論的にも…。

―寺田さんは、いろんな振付家の作品を踊られていますが、振付家とのクリエーションに入る時に、何か「はじめの心得」みたいのはありますか?

 えー、あるかな?そもそも人見知りだし、誰とでもすぐに馴染めるタイプでもないので、いろんな振付家の作品を踊るようになったのも<砂連尾理+寺田みさこ(※1)>後なので遅い方ですよね。

 元々は、特に現場でアイデアを立ち上げていくような振付家にとってはすごくやりにくいタイプのダンサーだったと思います。そもそも即興で動くとか全くできなかったし、納得するまでは頑なに動けない人間だったので、特に砂連尾さんなんかは、ものすごく苦労していたと思いますよ。あの手この手で試してくれていましたね。(笑)

 色んな振付家と仕事をしていく中で、ある時期からは「奉仕の精神でいかなあかん!」と思うようになりました、作品に対して。要するに、自分の流儀を一旦脇に置いといて、身体を貸す、あるいは預けるみたいな感じでしょうか。初めはかなり勇気がいりましたけど、結果的には圧倒的に得るものが多かったと思います。

 これは白井剛さん(※2)との仕事の経験が大きかったと思います。白井さんは、口数は少ないわ、声は小さいわ、最初は分からないことだらけで…(笑)。ただ彼の作品制作の手続きには、すごくミクロな視点とマクロな視点と両方あると思うんですね。彼が稽古場でマクロな視点で見ている時には、ダンサーの身体の状態とかはある意味どうでもよくて、寧ろ恥ずかしいくらいスッカスカの踊りでも、とりあえず今、何かやって見せてあげた方が良いとか、そういう感じのことですね。もちろん白井さんの場合はミクロの視点で徹底的に身体に拘る部分もあるので、その時々で、振付家が今何を求めているか、ということを敏感に察することも大事かもしれません。私が上手く出来ていたかどうかは白井さん本人に聞いてみないと分かりませんけど。(笑)

 それとは別のパターンとして、バレエの石井潤(※5)さんや、舞踏の笠井叡さん(※3)との仕事の時がそうでしたが、初めに完全に振付を渡してくれるような場合は、どのように踊るか、まず明確なビジョンを描いた上で身体を追い込んでいくんですけど、その過程でビジョンそのものも更新し続けることが大事かなと思います。

 つまり振付家とキャッチボールし続けられるかってことですね。どういう手順で進んでいったとしても、最終的に踊りを自分のものに仕上げる作業は自分で更新し続けるしかないので、どこまで解像度を上げていけるか、細かい作業が必要になってきます。

―やはりそこがダンサーの仕事の醍醐味なんでしょうか?

 そうですね。私はそう思っています。

― 音楽とダンスの関係性についてはいかがでしょうか?

 バレエ出身なので、クラッシック音楽との組み合わせとで言うと、やはり石井アカデミー・ド・バレエ(※4)で育んできたものが大きいと思います。クラシックバレエって音楽ありきみたいな作品が多いじゃないですか。その場合音楽が主で、振付の型もカウントもそれに従って完全に決まっているはずなんですが、実は振付がもう一つの旋律を奏でるようなあり方もあると。そういう音楽とダンスの関係を、石井潤さんの作品を踊る中で多分無意識的に学んできた気がします。最近、石井さんの作品の指導をしている時に改めて気がついたことがあって、それはいかに音楽とのズレを作れるか、っていうことなんです。もちろん大きくは音楽と合わせることが前提なんですけど、その中で音楽の運動性と振付の運動性を考慮して小さなズレを作っていくことで、それぞれの振りを、より一層その振りらしく踊ることができるんですね。昔自分が踊っていた時は、ほとんど直感的にやっていたんだと思います。

―小さい時に音楽の勉強をしていたわけではないんですか?

 そうですね。父が音楽家なんですが、父は家ではほぼ音楽を聞いていなかったし、外でも音楽が流れているところに行くのが嫌みたいでした。気になるらしく。(笑)

 子供の頃、何度か父からピアノの手解きは受けたんですが、どうも続かなくて。父はギタリストなんですけど音大時代に作曲とかも勉強していたせいか、子供相手にやたら理論で攻めてくるんですよね。あと聴音とかね。子供だからとりあえず弾きたい訳ですよ。そうして習ったり止めたりを何度か繰り返していたんですが、5回目くらいにバッサリ断られました。今となっては後悔しています。(笑)

 ただ、父のギターや姉のピアノの練習を聞いている環境にはあったので、やっぱりクラシック音楽には親しみがあると思います。クラシック音楽の完成度とか強度って、やっぱり凄いですよね。

 何かを考えようとすることすら拒まれる感じとか、大勢のしかもバラバラな人間をいっぺんにグイッとある方向へ引っ張っていく力とか…。実際ダンスをするときに、クラシック音楽ばかりを使っているわけではないんですけど、作品の選曲をするときに、どうしてもクラシック音楽の方へ引っ張られがちなのは、やっぱり育ってきた環境とかが影響しているんだろうな、とは思います。

 音楽とダンスの関係、ですよね?

 自分で言うのもなんですが、ダンサーとして音楽性については割とよく褒めてもらえるんです。(笑)と同時に、こういうインタビューとかトークとかの場では、音楽とダンスの関係について聞かれることが多いんですが、残念ながら、まだ1回もまともに答えられた試しがないってことに今気がつきました。(笑)もうちょっと頑張って考えます。

―寺田さんにとって、いいダンサーであるための条件というのはなんですか?

 ・・・「身体フェチ」とか。それと「疑い続けられるか」ということもあるかもしれないですが。あとはやっぱり「継続できるか」ですかね。あ、でも私・・・実はものすごく怠惰なんですよ。

―そんな、それは誰も信じないですよ。

 いや、本当に…。

 バレエの世界の格言で、レッスンを「1日休むと自分に分かり、2日休むとパートナーに分かり、3日休むと観客に分かる。」って言うのがありますけど、私、休みまくりなんです。

 なので、自分のことは高〜い棚に上げますが、「継続」は大事だと思います。(笑)

 ただ子供の頃は、「継続が大事」とかは関係なく、とにかくバレエが好きで好きでしょうがなかったので、学校は休んでもバレエには行きたい、というか寧ろ、学校へ行かないとバレエに行かせてもらえないから渋々学校にも行く、みたいな感じで、それこそ週5日くらい通っていました。

 それで、その時の貯金がまだ残っているという感じはするんです…こう言うとサボリ魔の言い訳みたいですけど。(笑)貯金というのはフィジカル面のことだけではなくて、自分と自分の身体との関係の取り方のベースなんかも、この頃に形成されたんじゃないかと思います。とにかく毎日同じことを繰り返すというトレーニング方法の中でしか培われない身体との距離感というのがあると思っていて、この距離感が持てないと長く続けることが難しい気がします。身体が物質である限り長期戦で挑まざるをえないっていうか、だって、そんな簡単に変わりませんからね、身体。

 今、若手のダンサーたちが日々どんな風に稽古しているのか、詳しいことは知りませんが、上演に向けて集まって稽古したり、短期のWSを受けたりする以外に、日々どうしているのかなぁと、少し気にしています。

 私の考える理想的な環境は、たくさんの良いクラスが安価に開講されていて、ダンサーはそれらを選択した上で習得できる。さらに、仲間と共に研究できるような場所があれば最高ですよね…ないけど。(笑)

 既存のテクニックの習得はもちろんですけど、新しいスタイルを発見したりそれを築き上げていくためにも、やっぱり地味な日々の積み重ねが必要だと思います。なので実は今、そういう仲間とか場とかを求めている人たちの緩〜いサークルをつくってはどうだろうと、知り合いのダンサー達に声をかけているところなんです。互いに持っている技術を交換したり、それぞれの関心や問いを投げ入れたりして、「上演のための稽古」以前の稽古ができるような場があるといいんじゃないかと思っています。その名も「地味練サークル」って言うんですけど。(笑)

 とにかく継続できる状況をどうやったらつくれるだろうということは考えています。

※1 砂連尾理+寺田みさこ: 1991年より共同で活動を開始、ユニット結成後、京都大阪を中心に作品を発表。2001年 2月「横浜ダンスコレクション2001 ソロ&デュオCompetition」に選出。2002年「ランコントルコレオグラフィック セーヌ サン・ドニ(旧バニョレ振付賞)」に選出、「第一回TORII AWARD」大賞受賞、「トヨタコレオグラフィーアワード2002」において、「次代を担う振付家賞」「オーディエンス賞」をW受賞。現在はユニットの活動を休止中。

※2 白井剛: http://shiraiabst.wix.com/tsuyoshi-shirai-abst#!Home/mainPage

※3 笠井叡: http://www.akirakasai.com/jp/blog/akira/

※4 石井アカデミー・ド・バレエ: http://ishiiballet.com/about/#history

※5 石井潤:http://ishiiballet.com/about/#jun

(聞き手:横堀ふみ、写真:岩本順平)

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